アーティストとして自己発見の旅の始めに、学校で学ぶべきか、独学で学ぶべきか、どちらが良いのだろうかと考えることがあるかもしれません。知識、人脈、洞察力、そして成功をもたらしてくれるのはどちらだろうと。簡単な答えがあると思いたいところですが、とても曖昧です。実際のところ、人それぞれなのです。多くのアーティストが正式な教育を受けずに成功を収めていますが、一方で、学校で学んだことが芸術性の発展に不可欠だった人もいます。あなたがどちらの立場であっても、この記事を読めば、両方の洞察を得ることができます。知識は力となります。情報量が多ければ多いほど、自分の状況に合った判断をすることができます。

独学

やる気があり、機知に富み、クリエイティブな制約が少ない方がうまくいくタイプですか?もしそうなら、独学の道を歩むのが合っているかもしれません。以下に、独学の長所と短所を挙げますので、検討する際の参考にしてください。

「私個人においては正式なアート教育が必要でした。だからと言って、他のみんなが必要であるとは限りません。アーティストとしての成長を評価するための方法や自己管理が自然にできる人もいますから」- 清水裕子、イラストレーター(ニューヨーク)

長所

  • クリエイティブな制約が少ない。好きな時に、好きなように、好きな作品を作ることができます。粘土を使ってみたい?本物よりも大きな3Dポートレートを作りたい?クロスハッチの研究に没頭したい?いいじゃないですか!それはあなたが決めることです。
  • 豊富な知識が簡単に手に入る。インターネットは、学びたい人のための真の遊び場です。無料のリソース、有料のリソース、あらゆる形・嗜好のリソースを自由に使うことができます。好奇心を持ち続け、学ぶためのモチベーションや情熱を忘れず、自己管理ができる限り、世界はあなたの思いのままです。
  • 自分でスケジュール管理。今日は絵を描こうかな。やっぱり止めよう。遠近法について学ぼうか。新しいアプリケーションを試してみるのもいいな。いや、旅行に出て頭をリフレッシュしよう。決めるのはあなたです。スケジュールと予算を上手に管理することができれば、自由はあなたのものです。
  • コスト削減。いつ何を学びたいかを明確にすることで、予算に応じて決めることができます。確かに、画材費やスタジオ、ライフドローイングのセッション料などのコストはかかりますが、何を購入するかは自分でコントロールできます。また、仲間を探してスタジオの家賃を割り勘にしたり、スペースを交換したりすることで、節約する方法もあるでしょう。

「独学は、自分のことは自分でやるわけです。私は、他の仲間たちよりも多くのことを、また多様なことを学んだと思っています。新しいことを早くから取り入れたし、型にはまった作品作りをしなかった、そんな感じです。しかし、それには責任が伴います。自分でスケジュールを組み、自分でプロジェクトを見つけ、人を見つけ、人脈を作る。すべては自分次第なのです。私の場合は今のところその方法でうまくいっていて、ゆっくりと人脈を広げてきました(中略)しかし、実践するのは自分です。誰も私のためにしてくれませんからね」- シェリー・グラフ、VR/AR&ゲームディベロッパー(ドイツ)

短所

  • 全てが自分次第。何を学ぶか、どれだけ早く上達するか、何のために時間を割くか、どの素材を選ぶか、どれだけ意を決して困難に挑んでいくか。すべては自分次第です。責任を持ち、スランプに陥ったときにモチベーションを高めてくれる強力なサポートシステムが周りになければ、未来はあなたの腕一つにかかっているのです。言い換えれば、良い面としても、未来はあなたの手の中にあるということです。それを最大限に活かしてください。
  • きちんとした批評を得ることが難しい。学校では先生や仲間からの批評がありますが、一人の場合、自分の作品にフィードバックをくれる人を探さなければなりません。可能ではありますが、あなた自身の努力が必要です。また、特定の人に意見を求めたい場合は、人脈を広げていく必要があります。
  • 人脈作りや就職活動は、より困難。正式な教育を受けているかどうかにかかわらず、適切な人脈の輪に足を踏み入れることは、どのような状況においても困難です。しかし、独学の場合は、先生の人脈や卒業生のグループなどが期待できません。ですから、やる気、臨機応変さ、レジリエンスが鍵です。気を引き締めて、頑張りましょう。
  • 周りの環境や自分の性格によっては、クリエイティビティが行き詰まることもあるかもしれません。健全なクリエイティブ仲間の輪を築いていれば、そのような問題を軽減することができるでしょう。違った角度からの視点やアプローチを聞くことで、問題解決や自分の想像力の枠を超えた発想ができるからです。普段から協力的な環境に身を置いている人は、そのような環境に簡単にアクセスできなかった場合、自分にとってのインパクトを考えてみましょう。
  • 孤独を感じる。内気な人や静かに集中したい人にとっては、グループやクラスでの交流をしないで、自分だけの創作や実験をする時間が持てるということは、むしろプラスになるかもしれません。しかし、自分と向き合う時間が増えるということは、自分自身の悪魔と向き合う時間が増えるということでもあります。自信喪失、自己肯定感が低い、失敗への恐れなどです。そして、その悪魔の存在を打ち消す仲間の声がないときにこそ、私たちを食い物にしようとやって来ます。恐れることはありませんが、一考の余地はあります。
  • 海外での就職が難しい。国や企業、職種によっては、関連する正規の教育を受けたことを証明する必要がある場合があります。特に若手レベルでは、必須であることが度々あります。自分が進みたい分野や業界がすでに決まっている場合は、これらを考慮する必要があるのか、それとも出来の良いポートフォリオと才能さえあれば十分なのかを調べてみましょう。

「当時を振り返ってみると自分にとっては両方の組み合わせが最も効果的だったと感じています。正式なトレーニングは、最終的にはアーティストにとっての補助輪であって、縛り付ける足かせではありません。独学もすばらしいですが、自分を律し、業界の仕組みを知らなければ、正式なトレーニングを受ければもっと早く到達できたであろうレベルに到達するのに何年も、何十年もかかってしまいます」- ステファン・ランピング、コンセプト&ビジュアルディベロプメント・アーティスト(オランダ)

学校/正規教育

システムがしっかりしていて仲間と共同作業をする環境が好きな方、モチベーションが低い方、専門的認定を受けることで自信を持ちたい方には、正規教育を受けることが適しているかもしれません。

「私は自立している方が好きだし、その方が生き生きできます。しかし、多くの人々にとっては、より真っ直ぐな道、多くの評価や安全性は価値があることは間違いありません」- シェリー・グラフ

長所

  • 先生が身近に。先生たちの経験や専門知識から恩恵を受けるのはもちろんですが、仲間からも学ぶことができます。同じ情報を他の人がどのように解釈しているのか、異なる枠組みを用いているのか、彼ら独自のレンズを通して、どのように世界や作品を見ているのかを知ることは、自分の視野を広げることにもつながります。あらゆる角度から学ぶことに前向きになってください。
  • 体系的学習とチームワーク。新しいコンセプトやツール、アプローチなどを体系的に学ぶことが得意な人は、正規の教育機関が合っているかもしれません。また教育機関では、チームでコラボレーションする機会も経験することができるでしょう。しかし、個々のカリキュラムに翻弄されることになるので、入学を決める前に必ず何校も見て回り、リサーチをしてください。
  • 目を養う。見た目の良し悪しは、誰にでもわかります。しかし、それを言葉で表現したり、ニュアンスを理解したりするには、技術や練習、経験や訓練が必要です。このようなスキルを身につける方法は他にもありますが、良い学校教育や実習を積むことができれば、近道になるでしょう。
  • ツールや素材、スタジオへのアクセスが容易。写真教室に通いたい、スクリーンプリントに挑戦したい、最新のテクスチャーソフトを試してみたい。そんな時は、廊下の先を左へ。大きな教育機関で授業を受ければ、さまざまなプログラムやリソースに簡単にアクセスできるでしょう。その特典を活かしてください。いろいろなことを試し、自分の好きなものに突き進んでいきましょう。
  • 人脈や就職の糸口。プロの教師、卒業展示会、同窓会やメーリングリスト、クラスメートなど、最初から将来の就職への架け橋や人脈の輪がそこにはあるかもしれません。しかしだからといって、それに甘んじることなきように。人生に保証はありませんし、コネクションがあるからといって仕事がもらえるとは限りません。努力、集中そしてレジリエンスが大切です。


「振り返ってみると、美大に入る前の完全に独学で作った作品は悪くなかったと思います。しかし、何がうまくいって、何がうまくいかなかったのか、どうすれば良くなるのか全くわかりませんでした。こういったことは、学校に戻ってから学びました。教授からも学びましたが、それ以上にクラスメートから学んだことが大きかったです。

美術学校は、技術やクラフトを学ぶためのものではなく(それも学びましたが)、アーティストとしてのメンタリティを身につけるためのものだったのです」- 清水裕子

短所

  • 高いコスト。どこに行くか、どのような教育を求めるかによっては(大学、大学院、パートタイム、専門学校など)非常に高い費用がかかります。ですので、行くところ次第で、学生ローンが現実になる可能性もあります。よく調べて、自分の予算に合ったものを現実的に考えてください。もしローンを考慮するならば、将来的にどのくらいの期間で完済できるかも考えましょう。
  • 息苦しい枠組み。ミニチュア・キュビズムの外光派を専門にしたい?いいですね。しかし今学期はドローイング101に参加して、「点描画法に関する意見」という小論を水曜日までに仕上げなければいけません。それに、たとえどんなに粘土が得意でも、グループが同じレベルでなければ、どういった専門的技術を学べるかは、グループのなすがままになってしまうでしょう。自由度が高い方がいいという方は、これは留意すべき点かもしれません。
  • 総合的すぎる。どの学校、どのプログラムに申し込むか、また自分がどのように学びたいかによって、教育の形態によっては範囲が広すぎたり、お試しパックのように感じられたりするかもしれません。特化したい分野が強くある場合は、検討している学校でその機会が得られるかどうか、また自分で学習計画を立てたいかどうかを検討するとよいでしょう。
  • 成功の保証はない。すごいね!卒業したんだ! おめでとうございます!これであなたは言うまでもなくプロであり、自動的に社会へ出る準備が整いましたね。そして、名声と成功を手にすることができるでしょう。しかし、残念ながらそうではありません。卒業したからといって、他の人よりも資格や才能があるとは限りません。得るものは、何を注いだかによって決まります。そして、人生経験は気まぐれに与えられるものではありません。これからどこに到達できるかは、様々な要因が考えられますが、やる気、決断力、勤勉さなどが上位に挙げられます。

「アートスクールに行っても行かなくても、アーティストの道は簡単ではありません。どちらを選択するにしても、集中力、努力、建設的な批判、そして自分が注ぐ時間が鍵となります。ですから、自分の好きなことを選ぶということが大切なのです。好きなことをしていれば、どんな困難な状況でも乗り越えることができます」- 清水裕子

つまり、全員に当てはまる万能な答えはないのです。また、ある選択肢が他の選択肢より優れているということもありません。上記で述べた以外にも、学校と独学を組み合わせたハイブリッドなアプローチや、違うタイプの教育システム、実習(アプレンティスシップ)など、ここでは紹介しきれなかった多くの選択肢があります。人にはそれぞれ必要なものや目標があります。自分自身のニーズや目標を掲げてください。自分にとって何が大切なのか、それは自分自身にしかわかりません。だからこそよく考え、たくさんの質問を投げかけ、そこから自分に合った答えを導き出してください。